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2018/8/4 21:41 ブルーシート
トイレの前、人が倒れている。
新宿では見慣れた光景かもしれないけど、浴衣姿の人が肩を叩いて大丈夫ですかと聞いている。
既に大きな人だかり。
意識がない。息はあるのか。AEDを持って走ってきた人。駆け寄り手渡す。
すでにできることのない私は一旦トイレへ。あの状況で、私は率先して行動できるのかな。今の私にはたぶんできないな。知識がないとか、間違えたことをして命取りになるのが怖い、と言って。人の運命を変えてしまうのが怖い。誰も助けてくれなかったと私はよく言うけど、じゃあ私は誰かに手をさし出そうとしたことがあったのか。
トイレから出て来るとAEDの作動音。ビープ音が鳴っているけどそれがどういう意味なのか分からない。高い音に変わる。駅員さんが7,8人倒れている人を取り囲み、青いシートを掲げる。その人の周りを四面に取り囲む壁のように。最高潮まで集まっていた群衆は、さーっと消えていく。私はここにいていいのか。好奇心なのか。蘇生するのを見届けたいのか。この青いシートは死を象徴しているのか。わからない。連れはその場を動こうとしない。「いたいならいていいよ」もう少し待ってみる。何を。
知りもしないひとの、生き死にに動揺して必死に涙を堪えている私はやっぱり境界線の感覚が薄いのだなと、思う。どうしたらいい。何もできない。医学の勉強すらしたことない。ねがうしかできない。当たり前だ。そんな当たり前のことばかり。
消防隊に連絡している。滑って転倒し頭を打ったよう。長い間立ち尽くした。去ろうとしたそのとき、その人が頭をやや上げて話し始めたのが目に入る。よかった。いきていた。まだ不安はあるけれど、とりあえず、いきていてくれてよかった。なんて、勝手な。なにも知りもしないのに。でもすこし安堵があった。